2021年・本屋大賞ノミネートの深緑野分さんによる人気小説を原作とする劇場アニメーション

「この本を盗む者は」(2025年12月26日より全国公開)の主題歌に決定!!

初回仕様 [紙ジャケット / オリジナルステッカー封入]:ESCL 6159 ¥1,400+税

CD収録内容

作詞:YUKI
作曲:AYOUNG (ARTribe), 十織 (ARTribe)
編曲:小西遼

Sound produce, arrangement, programming : 小西遼 (象眠舎, CRCK/LCKS)
Drums:So Kanno (BREIMEN)
Bass:山本修也
Piano, Wurlitzer:佐藤浩一
Organ:宮川純
Percussion:Taikimen

1st Violin:西原史織 [Strings Coordinate]
2nd Violin:亀井友莉
Viola:島内晶子
Cello:村岡苑子

Trumpet:真砂陽地 [Horns Coordinate], 吉澤達彦
Trombone:半田信英
Tenor Saxophone:Juny-a
Baritone Saxophone:鈴木 圭

Vocal Recording Engineer:原田しずお (Sony Music Studios Tokyo)
Recording Engineer : 加瀬拓真
Mix Engineer : 葛西敏彦, 加瀬拓真
Mastering Engineer:阿部充泰 (Sony Music Studios Tokyo)

special interview

2024年6月にリリースされたアルバム『SLITS』以来、約1年半ぶりとなるニューシングル「Share」を12月17日にリリースするYUKI。この曲は、2021年本屋大賞ノミネートの深緑野分による人気小説を原作とする劇場アニメーション『この本を盗む者は』の主題歌に決定。大切な人に“シェア”することで生まれる優しい世界を、数え切れないほどの音色が彩った今作は、どんな想いから生まれたのか。YUKIに訊きました。

Interview:矢隈和恵

── 「Share」は、劇場アニメーション『この本を盗む者は』の主題歌に起用されていますが、このアニメのために書き下ろされた曲なんですか?

YUKI「始まりはこの劇場アニメーションのお話からでした。『この本を盗む者は』という原作本があって、その本がアニメ映画になるので主題歌を、というお話をいただいたのは、もう1年以上前ですね。まだアニメーションもこれからという時期だったので、原作を先に読ませていただいて。そのときは私もツアーをやっていた時期だったので、ツアーが終わってからゆっくり考えようと思って、今年の頭から曲作りを始めました」

── 原作を読みつつ、イメージに合う曲を探して、歌詞を書いていったんですね。

YUKI「いろいろなdemo音源を聴いて、この曲だったらこの映画に合うかなというのと同時に、純粋に自分の新曲として出したいと思う曲を探しました。私はいつもメロディーとリズムを聴いて、そこにハマる言葉を探して歌詞にしていくんですけど、いろいろな曲に言葉を乗せてみて、メロディーの呼ぶ言葉にはどうしても抗いたくないし、抗えないとも思っています。無理に逆らってアニメに寄り添った歌詞を作るのも曲としてどうかなと思っていたことと、劇場アニメーションの制作サイドからも、この本のストーリー通りではなくても、むしろ全く寄り添わなくてもYUKIさんの世界のあるもので、ということをおっしゃっていただいたんです。今までもそうですけど、自分の奥底にあるものというのはどうしても出てくるし、私は生活が全て制作に影響するので、歌詞にも私の中にあるものが出てしまうんです。ということは、この本を読んだことはもう私の中に入ったことになるので、その本から受け取ったものは、もう私の中に蓄積されていて、そこから出てきたのがこの曲でもあるんです。物事はひとつの理由だけではなくて、そういういろいろなことが積み重なって出来るんだと思います」

── 今回、歌詞を書く上で、何かテーマのようなものはあったんですか?

YUKI「歌詞の中にもありますけど、やっぱり自分でコントロールできないこと、ここでは〈私のエゴ〉というふうに書いていますけど、何とかして少しでもその人のことを分かりたい、何とかしてその人に寄り添いたいと思っても、できないことはあると思うんです。自分のことさえもコントロールできていないのに、どうやって人のことを理解することができるんだろう。そういうものはテーマでもありました。でも、縁というものがあるのなら、縁の糸は誰かに繋がっているんだと思うんです」

── ジャケット写真は、YUKIさんの指にいくつもの赤い糸が繋がっていますね。

YUKI「これはデザイナーの方が考えてくれたんですけど、そういう“縁”という意味もありますね。この「Share」というタイトル文字は私が書きました」

── 昨年『SLITS』というアルバムが出来て、そのツアーも終わり、レコーディングに向けて、『SLITS』以降はどういうモードだったんですか?

YUKI「昨年のツアーが終わったのが12月でした。最終日を終えて、一本一本いいものができた、しかもいろいろな発見もあったし、自分自身もいろいろ勉強になって、成長できたぞと思っていました。いつも年末は、2、3年ぐらい先のことまでなんとなく考えていますけど、今年はたぶん吸収する年だなというのはぼんやりあったんです。たくさん遊んで、いろいろなものを見て、エンタメを楽しんで。そこで吸収したものをまた音楽に出していくために、自分の中に蓄えるぞと思っていました。アルバムを作っているときはずっと頭の中が回転していて、いくらでも出来る、まだまだ曲を作るぞ、という感じだったんですけど、やっぱり『SLITS』という作品を一枚作り終えたら満足して、しかもコンサートツアーでさらにその曲たちがまた独り立ちしていって、ツアーを終えて、ひとつのストーリーが完結した感じだと思います。だから今年は、また新しい物語を作るために、冒険に出ているような一年ですね。また曲を作るために、いろいろな人と会ったり、旅行に行って体感したり、歌詞を書いたり。今年はNetflixドラマ『グラスハート』で演技をしたり、“MUSIC AWARDS JAPAN 2025”のオープニングムービーに呼んでいただいたり、そういうお声掛けいただいたお仕事が多かったんですけど、そういうものも全て自分の実になっている感じがします」

── YUKIさんは、吸収したものや日常が全て音楽に通じているんですね。

YUKI「そうですね。こういうお話があるよ、こういう曲を作れますか? と言われて、じゃあ作ってみようと思ったときも、自分の内側にあるものから出していっているという感じです」

── この「Share」という言葉は、最初に出てきた言葉なんですか?

YUKI「いえ、かなり後半でした。歌詞を書き始めて、この〈最高峰の解像度なら 分かり合えるか?〉という歌詞が一番先に出てきたので、〈分かり合える〉という言葉に引っかかっていたときだったんだと思います。そこからまた原作を読んで感じたことを入れていったと思います」

── 『この本を盗む者は』の原作を読んで、YUKIさんはどういうことを感じられたんですか?

YUKI「やっぱり幼少期の頃を思い出しましたし、“何者にでもなれる”という想像力の深さは、幼なければ幼いほど強かったと思います。今もその延長線上で、こういう歌詞を書く仕事ができていて、普通が何かというのは定義できないですけど、私は想像力を働かせて楽しめる人間ではありますね。私は次の日が楽しみで、早く朝になってほしいと思って毎日眠りについているんですけど、それは幼少の頃からそうなんです。『この本を盗む者は』を読んだとき、その幼少の頃の自分を思い出す感覚でした。あの頃、モンチッチというぬいぐるみがありましたよね」

── ありました。私も持っていました。

YUKI「当時、すごく大事にしていたのに、破れて、ぬいぐるみの中身が全部なくなってしまって、子どもの私は、モンチッチが死んでしまったと思ったんです。でも、そのモンチッチが大好きで、ベッドの枕元にその中身が抜けてしまったモンチッチを置いて、毎日「おはよう」とか「おやすみ」と言っていて。今までそんなことは忘れていたのに、この本を読んだときに思い出したんです。幼少の頃にすごく大事にしていたものなのに、大人になると忘れていることってあると思うんです。それを思い出したときの感情が、この本の主人公と同じだなと思いました。忘れていた大切なことを思い出して、どんどん年を重ねてきて、素直になる気持ちとか、手放せなくなる思いとか、強くなっていくエゴさえも分かり合いたいと思う。“分かり合いたい”という気持ちは、“人は分かり合えないから”ということから始まるんですけど」

── 分かり合えない、というのが前提としてあるんですね。

YUKI「どうせ分かってもらえないという気持ちが、私の10代の反抗期の頃にもあって、それを頑なに守ろうとする自分がいました。自分の世界だけを分かってもらえないというこの世界、それは自分の想像力の世界だったんですけど。でも、誰にも分かるわけないし、特にそういう反抗期のときは自分の両親とか肉親とか、大事にしてくれている人にこそ甘えて、反抗して。反抗というのは、自分の世界しか見えていないということですね。自分しかいない、自分はひとりなんだと思ってしまう感じは、今なら分かるんです。今だったら、頑なに拒否して守るのではなく、分けてもらっていたと思える。それを一言で言うなら、きっと「愛」という言葉になるのかもしれないですね。それをもう知らないふりはできない。それは言葉ではないことですけど、今だからこそ分かりたい。それがこの歌詞になっていったので、素直に「Share(シェア)」がいいなと思いました。シェアという言葉は、ここ何年かですごく日常的な会話でも使うようになりましたよね」

── 「シェアしよう」という会話は日常的によく使われますよね。

YUKI「SNSとかでも、この私のモーニングルーティンを皆さんとシェアしたいと思います、というように、すごく日常的になっている。私が初めて「シェア」という言葉を知ったのは、料理を分けて食べるときに「シェアしましょうか」というときだったと思います。それまで「シェア」という言葉はあまり使っていなかったと思うんですけど、そのとき、こういうことを「シェア」というんだなと思ったんです。「皆さんでシェアされますか?」と言われたときに、「シェア」ってすごく素敵な言葉だと思って」

── 今回の歌詞は、物語のように綴られている感じというか、わかりやすい起承転結のストーリーではないですけど、つらつらと散文が綴られている感じがします。

YUKI「すぐに情景が浮かんで分かりやすく想像できるものと、ここはこういうことを言っているのかな? ここはこういう思いが込められているのかな? というように、曲によって歌詞の受け取り方が変わるものがあると思うんですけど、今回は、もしかしたら少しわかりづらい歌詞になったかなと思っていました」

── 確かに直接的な情景やストーリーが描かれているのではなく、YUKIさんはこの1行でどんなことが言いたかったんだろう? というふうに、想像力が掻き立てられる感じがします。

YUKI「自分はこう思って書いているけれど、受け取り手は全く違う意味で受け取るかもしれない。でも、それでいいと思うんです。もちろん、歌詞で私の想いが全て伝わってくれるところを目指してはいるんですけどね。私はあまり振り返ったりしないんですけど、この曲はわりと振り返っていると思います。今、そういう気持ちを素直に出すということが、自分の中であまり嫌ではないんだなと思います。あと、メロディーに呼ばれたものもあるのかなと思いますけど」

── この歌詞からは優しさを感じて、すごく温かい気持ちになります。

YUKI「本当に優しい世界だと思います。だって、私が集めている大切なものをあげるんですから。最近、ピラティスの先生や友人と話していても思います。影響し合っているんだなと。やっぱり人は影響し合っているんです。「類は友を呼ぶ」という言葉がありますけど、それは嘘ではないなと思います」

── 同じ気持ちや考え方をシェアできる相手とは、自然と一緒にいられる気がしますよね。

YUKI「そうですね。最近、本当によく思います。周りに不満があるということは、自分に対して不満を感じているからだと思うんです」

── 自分に対して不満ですか?

YUKI「自分が満たされていないと思うから、満たされてない人が集まるというか、目に入る。誰かを攻撃するということは、自分のことも攻撃していると思うんです。私は、良くも悪くもですけど、自分自身で完結したいと思っていて。何事も自分自身で解決、納得したいなと思っていますけど、それさえもエゴで。そうではなくて、たまには助けてもらいたいと言うとか、素直になっていいと思うんです。自分ひとりでも幸せで楽しく生きているけれど、そういう人たちが集まったらもっとハッピーになると思います。それは男女関係なくということですね」

── 友達であろうが、恋人であろうが。

YUKI「シェアというのは、軽やかな依存だと思うんです。深い強依存とかだと、お互い依存しすぎて、ひとつ間違えると落ちていってしまうと思うんですけど、そうではなくて、軽やかな依存。この歌詞を改めて読んでみて、そう思いました。自分で書いた歌詞なんですけどね(笑)。だって、人間はそんなに強くない。愚かなのが人間であって、みんな聖人君子でもないわけです。全てにおいて全く何にも非がない人はいないと思う。この人生で後悔はひとつもないとか、そういう人もいないだろうし、正義というのも危ういなと思うと、そんなひとつの過ちでアウトになるような人生は寂しいじゃないですか。全ては許すというか。だから、この歌詞は優しい感じに聴こえるんだと思います。弱い部分もダメな部分も、それを優しい感じで許し合えたらいいと思うんです。この本の主人公もまだ10代で、いろいろあやふやだし、まだ自己が確立されていなくて。でも、その時間というのは今思ってもすごく大切で。そのとき読んだ本や聴いた音楽、出会った人は、何十年経っても、今でもやっぱり自分はあのときの影響が強いなと思うんです。当時の危うい感じさえも宝物なんだということです。その当時はわからなくても、そうだったんだなって。それで人にもまたひとつ優しくなれるんです」

── この曲は、強さを持つ言葉も優しさを含んでいるというか、優しさをシェアすると、そこからまた優しさが生まれるような、そんな温かいものが全体の雰囲気から伝わってきます。

YUKI「私の全ての曲がこういう曲なわけではないんですけど、この曲は本当にそうだと思います。『この本を盗む者は』の物語は、御倉たまきという主人公の祖母が呪いをかけてしまって大変なことになるんですけど、それも許そうかなと思えますね。やっぱり本を愛する誰もが、本の世界と楽しくやれるわけではなくて。孤独で、やっぱり本しかなかったという人だったので、周りに迷惑をかけてしまう。でも、そういう人もいるんです」

── そうですよね。

YUKI「そもそもそういう面倒な呪いがなかったらよかったんじゃないか。正論はそうだと思うんです。でも、物語は正論だけではないということです。私は本も好きで物語も大好きなので、そんなことを言ったら物語にならないということはたくさんあると思うんです。分かっているけど、人はそういうことをやってしまうものだということですね。それが人なんだ、というか、人の面白さと奥深さと言いますか、複雑なところですよね。その複雑なところがあるから面白い。そういうところが本の楽しさで。本や映画は、人を追求している物語なわけじゃないですか。全てがそこから逃れられない。だから面白いんです」

── 今回、歌詞を書いているときに、YUKIさん的に“ここはいいな”という言葉はありましたか?

YUKI「今回は、何度も繰り返している、というイメージが自分の中にありました。人は本当にずっと繰り返しで、失敗を繰り返して、それでも少しでも良くなろうとする。何かで読んだんですけど、人生で会う人の数は決まっていて、そのご縁はもうずっと繋がっているものだというんです。今こうして会っている人たちは、もしかしたら前の世界では家族だったり兄弟だったかもしれないし、何かで縁があった人かもしれないと思っていたときに、この曲のデモに仮歌で入っていた〈アスファルトの水玉模様 境目なくなって〉という言葉がすごくいいなと思って。混ざっていって、マーブル模様のようになっているのが自分の中で映像的に浮かんだんです。なので、ここは元からあった仮の言葉を、そのまま使わせてもらっています。元は違う意味で入っていたんですけど、混ざっていく、境目がなくなっていく、というのがすごくいいなと思って。それでその後が、〈何度もまた 出会うだろう?〉という歌詞になりました。そこが好きで、いいなと思っています」

── この曲の編曲は、ポップスやジャズなど、幅広いサウンドプロデュースに定評のある小西遼さんです。

YUKI「小西くんは6年前に、Chara+YUKIの曲のアレンジをしてもらったんですけど、今回久しぶりに私の曲でもアレンジしてもらおうと思って、声をかけさせていただきました。しかも、劇場作品を楽しく作っていくのが好きな人で、今回のアレンジはそういうのがいいと思っていたので、ピッタリだなと思って。映画館で流れる曲なので、芳醇で分厚い感じのサウンドがいいなと思っていました。もちろん歌を聴かせる部分もありますけど、音楽として楽しめるようなアレンジがいいなと思って。例えば、歌のメロディーよりも後ろで鳴っているホーンセクションの音が印象的で、そこのメロディーを口ずさんでしまうというか。私も、この曲のアレンジをやってもらってから、歌よりホーンのメロディーばかり歌っています(笑)」

── 印象的なホーンのメロディーがいくつもありますよね。

YUKI「やっぱりそれってすごいことで、私が聴いてきた音楽もそうですけど、ギターソロが歌えたり、アレンジのほうを歌えるのはいいなと思ったのと、あと映画館で、アニメの最後とか途中にそういった曲が流れるのはすごくいいなと思ったんです。だから、小西くんにそういうリクエストはしました。イントロがきちんとあって、そのメロディーを口ずさめるのがいいなと。そしたらそれをすぐに汲んでくれて、最初に打ち合わせでお会いしたときにはもう分かってくれて、素晴らしいメンバーを集めて作品を作ってくれました。今回、楽器セクションは初めての方ばかりだったんですけど」

── レコーディングはどんな感じでしたか?

YUKI「面白くて、ずっと楽しかったです。聴いていてもすごく楽しかったですし、こういう贅沢な音作りは、できる限りやっていきたいなと改めて思いました。スタジオで、生演奏で、じゃあやりますか、と言って音を出すときが最高に楽しい時間です。ずっと聴いていられるというか。歌うことももちろん好きなんですけど、こうしてみんなで音楽を作っていくことも好きなんだなと思って。好きなことだと夢中になるので、あまり疲れないですし、嬉しくなるんですよね。このときのレコーディングは、1日で一気に録音して、ほぼ完成させたんですけど」

── 1日でですか!?

YUKI「夜中の12時ぐらいまでかかりました。みんな入れ替わり立ち替わりスタジオに入って演奏して。もちろんアイデアもたくさん出てくるので、もっといける、もっといけると、どんどん出来上がっていくのが本当に楽しくて。時間がいくらあっても足りなかったです。あと、正解は小西くんの頭の中にもあるけど、私の中にもあって、どこまでも追及しようと思えば追求できる。でも、制限はありますからね。この宮川純さんのオルガンも素晴らしかったですね。小西くんもすごくご機嫌な人なので、最高でした。でも、放っておくと歌を全然聴いていないようなアレンジになるので、そこは時々言いました。ここは歌だから、と(笑)」

── でも、すごく歌詞に寄り添ったアレンジだなと思いました。

YUKI「そこはリクエストしました。アレンジをしているときはまだ歌詞が完成していなかったんですけど、作業をしている隣でずっと歌詞を書いていたので、ここはこういう感じになると思う、というように、その場で少しずつ伝えていきました」

── YUKIさんの歌入れはいかがでしたか?

YUKI「私がいつもレコーディングで歌うときは、ここでこういう音が鳴っていてほしいな、ここにこういう音を足したいな、というところが出てくるんですけど、今回はそういうことが全くなかったです。小西くんのアレンジは、ここにこういう音が欲しいなというところに、いろいろな楽器の音色がもう入っていて、私が後から足すことはありませんでした。なので、歌入れは早かったですね。今回はコーラスも少なくて、例えば、オケが完成して、歌入れとなったときに、いつもであればこういうハーモニーが欲しいなと思って入れることが多いんですけど、それも全くなかったです。だから今回、自分のハーモニーは最後のところだけだと思います。入れたいと思った隙間には、全部音が入っていました(笑)」

── それはYUKIさんのオーダーもありつつ、小西さんのアイデアで。

YUKI「そうですね。これは放っておいたら音で埋まってしまうなと思いました。でも、ご自分でもおっしゃっていました。「結構埋めちゃうから、もし隙間が欲しかったら言ってください」と。でも、「大丈夫、大丈夫」と言って、どんどん入れてもらっていたら、歌入れのときに“こういうことか!”と分かりました(笑)」

── この曲は、歌を中心にして、さまざまな楽器の音色がとにかくあらゆるところで鳴っていて、耳が楽しくなるようです。

YUKI「面白かったですね。なるほどなと思って、勉強になりました。この曲は、隙間は作らなくていいなと思っていたので、私のイメージ通りに仕上がりました」

── 2番の頭の〈風を運ぶ電車に揺られ〉というところのアレンジは、スーッと静かになるんですよね。

YUKI「そうですね。電車の情景が浮かぶ感じがして、あそこのアレンジは大好きです。ここはそうだよね、と言ったら、そうなんですよ、と言って、分かってくれて。歌詞とすごくリンクしていて、嬉しかったです」

── この曲が映画の予告編で流れていたのを見たんですけど、映像がつくと、さらに歌の世界が広がる感じがしました。

YUKI「私も見ました。最後、〈ひとつ分けてあげる〉という歌で終わっていて、“すごく重要な感じになってる!”と思って。すごく大切に使ってくださっていて嬉しかったです」

── ワクワクがさらにアップするような歌になっていましたね。

YUKI「そうですね。素敵に使っていただけて、本当に嬉しかったです」

── そして、カップリングには、Peterparker69さんが手がけたリミックスが収録されています。これも言葉がすごく伝わってくるリミックスで。

YUKI「このリミックスは、元の曲のアレンジとは逆のことをやってくれて嬉しかったです。小西くんは今回、歌とか歌メロをあまりフィーチャーしないアレンジをしていて、私が埋めたいなと思った隙間をいろいろな楽器で表現してくれていて、オルガンからウーリッツアーから、全部がもうビシッと音で埋まっているアレンジだとしたら、Peterparker69の彼らは、まさに歌。本当に歌詞をズバッと全面に出すリミックスをしてくれて、すごく対比があっていいなと思いました」

── 言葉だけを散りばめました、というようなリミックスですよね。

YUKI「歌が気持ちよく聴けて、すごく嬉しいです。しかも、私のボーカルの感じや息継ぎまで聴こえて、そういう楽しみ方もできて嬉しいです」

── これはリクエストはせずにお任せだったんですか?

YUKI「彼らの今までの曲を聴いて、お願いして、まず好きにやってみてもらった何秒かのものを聴かせてもらいました。そこで方向性が違うなと思ったら、もっとこういう感じでとリクエストしようと思っていたんですけど、その何十秒かのリミックスが最初からすごく良くて。それでもうそのままフルで作ってもらいました。最高です」

── 本当に歌が心地よく、ずっと言葉を聴いていられる感じです。

YUKI「少し加工はされているけど、改めて今の自分の声を聴いて、いいなと思えました。自分の声を鬼聴きです(笑)。そんなことはレコーディングのときしかなくて、オケがなくて自分の歌だけを聴くことはあまりないんです。でも、こうしてボーカルが前面に出ていて、後ろがビートだけとかになると、かなり鬼聴きに近い。だけど、自分のボーカリゼーションを聴くと、きちんとできているなと思って。このリミックスは、聞き応えがありますよね。リミックスというのは、どちらかというとビートをもっと聴くとか、気持ちよく踊れるようにとか、あまり止まらないビートで作ることが多いと思うんですけど、意図的に私の歌を真ん中にしてリミックスしてくれているのがすごく嬉しいです」

── この曲で、シェアすることの優しさをすごく感じられましたが、シェアすることが苦手な人もいると思うんです。人と関わるのはめんどくさいとか、しんどいとか。

YUKI「誰でもそうですよね。めんどくさくない人なんていないと思います。ほとんどの人がそうだと思いますから、そこは特に不安に思うことはないなと思います。誰もがそんなに社交的ではないので」

── うまくシェアしていけるコツなんてあるんでしょうか。

YUKI「これは答えになっているかわからないんですけど、私が最近思っていることは、軽やかでいることです。あまり深く人のことを考えないということです。コミュニケーションを軽やかに。だって、奥の奥まではやっぱり分かり合えないですし、分からない。そして、人はコントロールできない。こう言ったらこう思われるかもしれない、この人には私はこう思われているかもしれない、ということを深く考えたら本当にどこにも行けないし、誰とも喋れない。ということは、やっぱり軽やかで優しくいたいと思うんです。それは表面的でもいいんです。優しいということを、その場での事象としてフラットに受け止めるなら、優しいというのはやっぱり最高だと思います。そう思うと、やっぱり軽やかなコミュニケーションなんじゃないかなと思います。優しい言葉で話すということです。思いやりですよね」

── 優しい言葉で話すと、優しい言葉で返ってきますよね。

YUKI「何か思うことがあったとしても、言葉を選んで、きつい言葉をなるべく使わない。自分が言われたら嫌だなと思うことを言わないということですね。何かでイライラしたり、段取りが悪かったり、目に余るようなことも、“私もそういうことはあるしな”と思えるといいですよね。そう考えると、それくらいのことはどうでもいいことというか、大したことではないんです。それなら、そこを考えている時間を、楽しいことやもう少し実のあることに使ったほうがいい。大切だなと思う人には、やっぱり大切にされたいじゃないですか。そう思ったら、そういう行動をするということです。この〈あたたかい光〉という歌詞がそれに近いですね。人にあげると自分に返ってくる。それは悪いこともです。例えば、ひどいことをしたり、ひどいことを言うことを、やっぱり私は怖いことだなと思います。返ってくるから。だから、なるべくそういうことはしないように気をつけています」

── 良いことも悪いことも、必ず自分に返ってきますよね。

YUKI「そこに気づいていたほうが楽だと思います。温かい人たちに恵まれているほうがいいですからね」

── でも、人にシェアすることで、自分もどんどん優しくなれる気がしますね。

YUKI「それで笑えるまでいったら最強だなと思います。だから、こういうことを歌詞に書いていて。理想であり願望でもあるけれど、このまま行ったら私、そうなれるかもしれないなと思って(笑)。そうなれると、さらに人生は楽しいなと思うんです」

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