2022年2月6日、ソロデビュー20周年を迎えたYUKIが、アニバーサリーイヤー第1弾となる3曲入りEP『Free & Fancy』を5月11日にリリースする。1曲目に収録されている「鳴り響く限り」は、YUKIも好きだというTVアニメ『ダンス・ダンス・ダンスール』OPテーマに決定。バレエに魅了されていく主人公・村尾潤平の心情を描きながらも、YUKIの中に“鳴り響く”消えることのない好奇心や情熱、そして、20周年の心境を綴った、ソロ20周年をお祝いする楽曲に仕上がった。

YUKI「ジョージ朝倉さんの『ダンス・ダンス・ダンスール』というバレエを描いた作品があるんですけど、その漫画がアニメになるということで、オープニングテーマのお話をいただいて。それがちょうど私のソロ20周年のシングルをどうしようかなと思って曲を探していたときだったんです。去年リリースしたシングル「Baby, it’s you」を昨年のコンサートで歌ったとき、お客さんは声を出せなかったんですけど、なんとなく一緒に歌っているような感覚があって、それでやっぱりこういう曲がいいなと思って。そのタイミングでこの『ダンス・ダンス・ダンスール』のお話だったので、ピッタリだなと思いました。主人公の潤平くんと私は突き進む感じが似ていて、潤平くんと自分を重ね合わせるというか、そういうところも歌えるといいなと思いました」

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── 「鳴り響く限り」というのは、何かが起きる予感が鳴り続ける、ということ。なんだかわからないけどワクワクするとか、調子がいいとか、そんな“予感の音”が鳴り響いている限り、YUKIの音楽が止むことはない。

YUKI「でも、「鳴り響く限り」というのは、心臓の鼓動が止まるまで、という悲しいことでもあるんです。刹那的ではあるんですけど、これは私がずっと言っているようなことですね。動かなくなるまでは笑って振動数を上げる。その覚悟の歌です。自分の仕事をまっとうする覚悟。つまり、覚悟が弱いと人に何か言われたときすぐに意思が揺らいでしまうけど、私は〈笑いながら〉生きていくという覚悟をしているんです。そういう覚悟はここ数年さらに強くなっていて。それは年齢を重ねたということも大きいと思います。いろいろな経験が私を思い切った人にさせているというか。私の人生だから何を言われても何にも思わない。私が影響を受けたいもの以外は、私に影響を及ぼすものは何もないんです」

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── この曲の歌詞には、YUKIが常日頃口にしている言葉や、今あらためてみんなと共有したい想い、20周年を迎えた決意表明のようなフレーズが高らかに歌われている。例えば、〈荒れる海原に飛び乗って 遊びたい〉という歌詞は、どんなことも楽しむYUKIの姿そのものだ。

YUKI「私は初めてのことでも面白いと思えることが多いんです。面倒臭いな、大変だなと思っても、それが面白いと思えるというか。例えば仕事でも、ずっと同じ人とやるより新しい人と大変でもやりたいのかもしれないですね。私はそれがすべて身になると思っているんです。例えば、好きになったレストランでは行くたびに違うメニューを頼みたいタイプです。美味しかろうが美味しくなかろうがチャレンジしたい。きっと好奇心がすごくあるんだと思います。そして、たとえそれがあまり好きではないと思っても、笑って済ませられるというか。そのほうが楽しいのかもしれないですね」

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── そして、歌の最後はYUKIらしく、〈笑いながら〉というフレーズで締めくくられる。

YUKI「これは不思議な話なんですけど、本当にきついときでも笑っているときつくなくなるんです。もちろんきついときはなかなか笑えないんですけど、無理やりでいいんです。頑張って口角を上げていると、どうやら脳が騙されるらしくて、きついことも大丈夫になってくるんです」

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── 歌入れの前には、こういうふうに歌って、こういうふうに声が鳴っていて、と、必ずイメージトレーニングをしてスタジオに入るというYUKI。この曲は、歌詞も軽やかだが、サウンドも軽快に、どんなステップで踊ろうとも誰にも咎められることのない、自由なリズムとメロディが流れている。

YUKI「歌入れの前は、家で何度も歌ってからレコーディングスタジオに入るんですけど、スタジオに入って実際のオケで歌うと、ちょっと違ったな、ということもあるんです。歌っているときに思いつくメロディもあって、その場で歌詞を変えることもあります。「鳴り響く限り」の〈強い風 流される雲の 隙間に 青い空〉という部分は私の歌が入ってからブラスを入れてもらっているんですけど、歌詞にあるように、空を見ていたら風が吹いてきて、雲の隙間にちらっと青い空が見えて、あれがもっと広がらないかな、というようなイメージが広がってきて。そしたらその歌詞を聴いて、ブラスアレンジもそのイメージになっているんです。アレンジャーさんは私の歌詞を聴いて、〈隙間に 青い空〉の部分が一番エモーショナルなんだろうと考えてくれて。私はピークというよりも転換のイメージがあって、青空を広げるためにどうしたらいいんだろう、でも思っているだけでは何も進まない、次は何をすればいいんだ、と主人公が力強く思っているイメージだったんですけど、そこに私の想像以上のブラスアレンジが入ったので、すごく気に入っています」

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── 続く2曲目の「パレードが続くなら」は、終わることのない人生のパレードを晴れ晴れと描いた楽曲。くるくると舞い上がるように、さらさらと舞い落ちるように、YUKIの言葉が心地よく流れていく。YUKIの声が高く鳴ったり低く響いたり、大胆になったり繊細になったりと、メロディに乗って変わる声の表情が印象的な曲だ。

YUKI「私はレコーディングでは1曲通して歌うことが多いんですけど、この曲はセクションごとに全然違うアプローチができるなと思って、セクションで分けて歌入れをしました。この曲はフレーズごとにすごく好きなところがたくさんあるんですけど、歌っていて作られたパートもたくさんあります。〈ススメ ワタシノパレード ヒキコモゴモ アルガ〉という部分は私があとから足したメロディなんですけど、歌っていたらパレードの光景が浮かんできたんです。それで、シュプレヒコールがどうしても入れたくなって。オシャレした子供たちやダンサーがカッコよく練り歩きながら何かを主張している、というものを入れたくなって。シュプレヒコールが鳴っている中で、ザッザッザッという足音が聞こえてきて、みんなで歩いている中心に私がいて、〈ススメ ワタシノパレード〉と歌うんです。みんなが私を祝っている感じです」

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── 歌詞にある「永遠はない」という言葉。よく聞くセリフだが、YUKIの手にかかれば、それも嘘なんだと言ってくれる。

YUKI「〈盛大なパーティは オールナイトロング 夢みたいだ〉とか〈「永遠はない」なんて 哀しい嘘 言わないで〉というところでは、全ては終わるものだということへの無情を歌っていますね。でも、この人は信じているんです。「永遠はない」ということもわかっているけど、そんなことは言わないで、という願いというか。私の歌で「同じ手」という曲があるんですけど、その中で〈変わらないものなど無いと聞くけれど / 君と過ごした時間は永遠だ〉という歌詞を書いたことがあるんです。そのときも、曲を聴きながら出てきた言葉だったんですけど、確かに私の中の“そのとき”は永遠なんです。永遠はないなんてない、そのときはそういう気持ちでした。自分の中で、この瞬間は永遠なんだ、と。ライヴのときも私はいつもそう思っています。そして、私のパレードは永遠だと願っています」

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── 言葉とメロディが遊んでいるような歌。1行ごとにリズムを変え、表情を変え、それを見事に束ねるYUKIの自由なボーカリゼーションは、軽やかでありながらも圧巻だ。

YUKI「〈あなたは 風に乗って〉と、テンポのいい歌詞の後ろにくる〈飛べるわ 飛べるわ〉というところは、わざとテンポに合ってない感じで三連符にしたかった。ここの三連符はすごく気に入っています。ここはもう〈飛べるわ 飛べるわ〉しか思い浮かばなかったので、すごくこだわりました。こういうふうにセクションごとにどんどんメロディが変わっていくと、辻褄が合ってなくても曲の性質として生きるんですよね。すごく面白い掛け合いみたいにもできるし。〈手探り のらりくらり ネバーエンド〉も、結構テンポから遅れて歌っています。ビートに乗らないで遅れて歌うというのがこのメロディはすごく合っていて。そこに続いて〈大丈夫さ 大丈夫さ〉と軽く歌が続いていくところも、すごく素敵ですよね。サビも、もたった感じがあるから、そのあとの軽快なメロディが生きるというか。この曲も本当に大好きです」

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── 現在のYUKIの決意を歌った「鳴り響く限り」に続き、この曲もまたYUKIの好奇心が続く限り、そのパレードは永遠に続いていくのだろう。

YUKI「Beat Goes On(=鼓動は続く)という感じは10周年のときもあったんですけど、私はきっとローリングストーン的な、転がり続ける石になれというようなものが何かあるんだと思います。でもそれは結構ずっとあって、「ハローグッバイ」にもそういう歌詞はありました。止まらない症候群みたいな感じは、いつもありますね」

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── 3曲目の「ハンサムなピルエット」は、バレエ用語がちりばめられた、『ダンス・ダンス・ダンスール』のもう一人の主人公・森 流鶯(るおう)をイメージした楽曲。淡々としている歌と、捉えどころのないメロディが不思議さと狂気を醸し出し、面白い楽曲へと昇華されている。

YUKI「流鶯くんは生まれながらに持つ才能があるのに、自分の母親がバレエの天才で、おばあさまに愛して欲しかっただけ、自分の踊りを見て欲しかっただけなのに、幼少期からお母様とずっと比べられてしまうという流鶯くんのイメージで書きました。書いていたらこういう歌詞になってきて、これは流鶯くんのことだなと思って。このオケはちょっと狂気を感じるんですよね。初めて聴いたときから、不思議な感覚の面白い楽曲だなと思いました。そういうピエロ感みたいな印象があったので、たぶんこういう歌い方になったんだと思います。そうすると、愛されたいのに僕はダンスだけなのか、踊っている自分だけなのかという虚しさがより増幅されて、明るい曲調なんですけどすごく悲しい曲になりました。だから歌い方も少し変わっていて、こういう感情が全くないような歌にしようと思ったんです。感情をたっぷり入れて歌うわけではなくて、淡々と歌ってぶっきらぼうだからこそ涙が出てきてしまうとか。ちょっとスタッカートみたいな、跳ねるような歌い方はすごく意識しましたね」

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── そして、この歌の最後のフレーズは、それまでのサビでは歌われなかった〈はみ出してしまいそう〉という言葉で歌われる。この1フレーズで心がすっと救われ、悲しみや葛藤を描いている歌詞でありながら、聴いた後にはポジティブさが残る。それがYUKIの音楽だ。

YUKI「この〈はみ出してしまいそう〉という歌詞は歌入れのときに変えました。型からはみ出しちゃいそうさ、ということですね。いつもだったら、他のサビと同じように〈嘘つきで 上等さ 回れ ハンサムなピルエット〉で終わっていたと思います。でも、やっぱりここで何か助けたかったんだと思います。サビのままの歌詞だと〈嘘つきで 上等さ〉で終わると思うんですけど、歌の最後にくる言葉として〈嘘つき〉で終わりたくなかったんでしょうね。それで、嘘なんてついていられない、という感じになったんだと思います。感覚的な話ですけど、このほうがまだ行動しそうな感じがする。嘘つきで上等は、かなり諦めている感じがしますよね。私は諦めたくないんです」

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── 『Free & Fancy』とは、「自由奔放」という意味。この2年間、YUKIが自分にとっての“自由とは何か”を考えた今だからこそ、この言葉は輝いている。三様に違った歌声が聴けるこの3曲。YUKIらしさは当然歌詞やメロディ、そして歌声に存在しながらも、そこには必ず新しいものがプラスされている。

YUKI「私のファースト・アルバムに収録されている「Rainbow st.」という曲でズボンズとセッションをしているんですけど、その頃はソロ活動を始めたばかりで本当に右も左もわからない状態で、レコーディングもどうしていいかまだ何もわからなかったときに、ズボンズとのセッションで曲を作ったんです。私はそんなことをやったことがなかったので本当に大変で。その曲の最後に〈free and fancy〉という歌詞があって、「私は自由なんだ」ということを歌っているんです。それで、『Free & Fancy』という言葉はずっと好きだったんですけど、私の一昨年から続いている“自由とは何か”ということを考えているときに「フリー&○○」というのはいいなとずっと思っていて。そしたら『Free & Fancy』があったことを思い出して、すごく素敵だなと思ってつけました」

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── 6月18日からは、全国ツアー「YUKI concert tour “SOUNDS OF TWENTY” 2022」がスタート。ホールとアリーナで展開されるこのツアーは、YUKIのソロ20周年を祝うツアーでもある。

YUKI「もちろん“SOUNDS OF TWENTY”というタイトルの通り、20年分の音たちを思う存分詰め込もうと思っています。全ての曲を演奏することはできないですけど、できる限りやりたいと思います。もう花火がずっと打ち上がっている感じですね。ずっとピークみたいな感じです(笑)。20年分の感謝の気持ちを、YUKIの歌を楽しんでくれているすべての人たちへ届けたいと思います。来ていただいた皆さんには、楽しく笑顔で、最高だった、面白かったと帰ってほしいですね。ツアー後半のアリーナ公演は、ホールでは表現しきれない、アリーナならではのステージになると思います。最近ライヴで演奏できていなかった曲ができるのもすごく嬉しいし、久しぶりに歌う曲もあるので、ぜひ楽しみにしてもらいたいなと思います」

Interview & Text by Kazue Yaguma